約11分 · 2026-10-22 更新
ベトナム渡航前の予防接種:本当に必要なものと、日本人に抜けている世代
入国に必須の接種はありません。それでも打つ価値があるのはどれか。破傷風が一九六七年以前生まれで抜けている理由、狂犬病の曝露前接種が買うのは安心ではなく時間だという話。

ベトナムに入るために証明書が要る接種はありません。黄熱の証明を求められるのは、黄熱の流行地域を経由してきた場合だけです。日本からの直行便では関係しません。つまり接種は、すべて自分で決める話になります。だから迷います。
この記事では、効果の大小ではなく、打たなかったときに現地で何が起きるかという順番で並べます。ベトナム滞在中の医療の選択肢が狭くなるもの。それを上に置いています。
先に読む:打っていても、現場では急ぐ
接種は「受診しなくていい」という意味ではありません。ベトナムの救急番号は115です。日本の119ではありません。接種歴があっても、次の状況は急ぎます。
- 犬、猫、サル、コウモリに咬まれた、引っかかれた、唾液が傷に触れた
- 錆びたものや土で深い傷を作った、刺し傷ができた
- 震えのくる高熱が続く、発疹と高熱が同時に出た
- 接種のあとで唇や舌が腫れた、全身にじんましんが出た、息が苦しい
- 首が硬くて前に曲げられない、強い頭痛と吐き気、意識がはっきりしない
破傷風:年齢で分かれる、数字の話
ベトナムでの日常は、転ぶ機会に満ちています。バイクの軽い接触、サンダルで踏んだ釘、浜辺のガラス、犬との接触。土の中の菌が入る条件は、都市でも農村でもそろいます。
日本で破傷風が定期接種に入ったのは一九六八年です。それ以前に生まれた人は、基礎免疫を持っていない可能性が高い。ここが実務上いちばん大きい。四十代後半から上の世代が長期滞在やバイク移動をする場合、出発前に接種歴を確認する価値は高い。記録が見つからなければ、基礎免疫からやり直す判断になります。
基礎免疫がある人も、十年を超えると追加接種の対象です。けがをしてから追いつこうとする。免疫がつくまでの時間が足りません。だから、これは「出発前」の話として書いています。
母子手帳がいちばん確実な記録です。実家にあるなら写真を撮る。スマートフォンに入れて持ってきてください。紙を持ち歩く必要はありません。
狂犬病:買っているのは安心ではなく時間
ベトナムでは犬と猫、そしてサルによる咬傷が現にあります。観光地のサルは餌をもらうことに慣れていて、距離が近い。発症すれば経過は極めて厳しい。咬まれた直後の洗浄と接種で防ぐ以外に、道がありません。
曝露前に接種していても、咬まれたら受診します。ここを誤解しないでください。変わるのは中身です。曝露前接種を済ませていれば、追加の接種だけで済み、入手が難しい抗狂犬病免疫グロブリンを探す必要がなくなります。地方や島で咬まれたとき、都市まで戻る時間に追われずに済む。それがこの接種の価値です。
逆に未接種なら、免疫グロブリンが置かれている施設を探すところから始まります。ベトナムの大都市では確保できる見込みがありますが、サパやフーコック、コントゥムのような場所からは移動が前提になります。長期滞在、バイク移動、農村部に入る予定があるなら、出発前の接種を検討してください。理由は十分あります。
A型肝炎とB型肝炎
A型肝炎は水と食べ物からうつります。潜伏期間が長いので、帰国後に発症します。日本の定期接種には含まれていないため、ほとんどの日本人は免疫を持ちません。食べ歩きを楽しむ予定なら、効果と手間の釣り合いがいちばんよい接種です。
B型肝炎は血液と体液からうつります。日本では一定の時期以降、乳児への定期接種が行われています。それより前の世代は未接種が多い。歯科や外科の処置を受ける可能性、タトゥー、ピアス、性交渉を考えると、長期滞在者には勧められます。短期の観光だけなら優先順位は下がります。
日本脳炎、腸チフス、麻しん
日本脳炎は水田のある地域で、豚と蚊を介して広がります。都市の短期滞在での危険は小さい。農村での長期滞在や雨季の滞在で、意味を持ちます。日本では二〇〇五年から数年のあいだ、積極的な接種の勧めが控えられた時期があります。その時期に該当する世代には、接種が足りていない人がいます。自分の年齢が当てはまるかは、母子手帳で確認するのが早い。
腸チフスのワクチンは日本国内では承認されておらず、輸入ワクチンを扱うトラベルクリニックでの接種になります。予約と在庫の確認が必要です。思いついた日に打てるものではありません。
麻しんは、成人で抗体が足りていない人が少なくありません。ベトナムで流行が起きることがあり、機内と空港は感染の起きやすい場所です。二回接種の記録がなければ、渡航に限らず検討の対象です。
いつまでに動けばよいか
複数回の接種が必要なものがあるため、出発の四週間から六週間前に相談するのが目安です。ただし、間に合わないからやめる。これは誤りです。一回目だけでも打っておけば、現地で咬まれたときの選択肢が変わります。出発三日前に受けられるものもあります。
複数の接種を同じ日にまとめられる場合もあります。トラベルクリニックには、行程と滞在地、宿泊の形、バイクに乗るかどうかを伝えてください。組み合わせを調整してもらえます。「ベトナムに行きます」だけでは、過不足のある組み合わせになりやすい。
現地で足りないと気づいたら
ベトナムの大都市には予防接種を扱う施設があり、狂犬病や破傷風、A型肝炎などは現地で受けられる場合があります。製品名と接種日の記録を英文でもらい、帰国後に続きを受けるときに渡してください。何をいつ打ったかが分からない。すると、同じものを重ねるか、足りないままになります。
往診でお引き受けできるのは四つです。接種歴の整理、咬傷や外傷のあとの処置、破傷風の必要性の評価、そして接種を扱う施設へのご紹介。ワクチンの在庫そのものは鞄でお運びできません。なお、各地域には、その土地に暮らし、医療従事者の資格を持つ医師・看護師がおり、ダナンから人を向かわせることはございません。
要点だけ
入国に必須の接種はないが、破傷風と狂犬病はベトナムでの行動を変えるだけの理由がある。一九六七年以前生まれは破傷風の基礎免疫を持たない可能性が高い。狂犬病の曝露前接種は、咬まれたあとに探し回る時間を省くためのもの。母子手帳の写真を持ってくる。間に合わないから打たない、は選ばない。
参考文献
- WHO — Vaccines and immunization: https://www.who.int/health-topics/vaccines-and-immunization
- 厚生労働省検疫所 FORTH — 予防接種: https://www.forth.go.jp/useful/vaccination.html
- WHO — Rabies (fact sheet): https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/rabies
- 外務省 海外安全ホームページ: https://www.anzen.mofa.go.jp/