約10分 · 2026-10-22 更新

ベトナムのヘビ・ムカデ・サソリ:やってはいけない手当てと、本当にすべきこと

毒を吸い出す、きつく縛る、切る、氷を当てる。善意の応急手当てのほとんどが傷を深くします。血液毒と神経毒の見分け方、腫れの記録のつけ方、ムカデとサソリの扱いまで。

滞在先で腕の傷の状態を確認している様子(イメージ)

ヘビに出会う場所は、思われているより町に近いところです。草が伸びた空き地、田の縁、雨季の水が引いたあとの排水路、リゾートの植え込み、山道の登り口。時間帯は夕方から夜に偏ります。咬まれる場所は足首から下が大半です。サンダルと暗がりの組み合わせがいちばん多い。

この記事の中心は治療の中身ではありません。咬まれてから病院に入るまでのあいだに、よかれと思っておこなわれる手当て。そのほとんどが、傷を悪くしています。

先に読む:迷わず救急へ

ベトナムの救急番号は115です。日本の119ではありません。ホテルや民宿のスタッフに頼んでください。代わりに電話してもらえます。咬まれた、刺されたと分かった時点で、次のどれかがあれば病院へ向かってください。往診を待たないでください。

  • まぶたが重くて開かない、ものが二重に見える、ろれつが回らない
  • 飲み込みにくい、唾がたまる、声が出にくい
  • 息が浅い、胸が苦しい、横になると呼吸が苦しくなる
  • 咬まれた場所の腫れが見ているあいだに広がっていく
  • 歯ぐきや古い傷からにじむ出血、血尿、鼻血が止まらない
  • 全身の発疹、唇や舌の腫れ、ぜいぜいする呼吸(アレルギー反応)
  • 冷汗、顔色が白い、立てない、尿が出ない

二つの毒は、見え方がまったく違う

ベトナムで問題になる毒ヘビは、おおまかに二系統です。ひとつはクサリヘビの仲間です。緑色で樹上にいるものが多く、都市の緑地でも遭遇します。咬まれた場所が強く腫れ、痛み、やがて皮膚の色が変わり、血が止まりにくくなります。目に見える変化が主役です。

もうひとつはコブラやアマガサヘビの仲間です。こちらは神経に働きます。傷そのものは腫れも痛みも乏しい。ときには、咬まれたことに確信が持てないほどです。数時間後にまぶたが落ち、ものが二重に見え、飲み込めなくなり、最後に呼吸の筋肉が弱ります。腫れていないことは安心の根拠になりません。これが、この章をわざわざ分けて書いている理由です。

どちらか分からなくても構いません。分類は病院の仕事です。こちらの仕事は、時間を無駄にしないことです。

やってはいけない七つ

  • 口で吸う。毒は吸い出せませんし、口の中の細菌を開いた傷に入れます
  • ナイフで切って出す。腫れた組織を切れば、出血と感染が足されるだけです
  • 紐やゴムで手足の付け根をきつく縛る。血流を止めると、助かるはずの筋肉と皮膚が死にます
  • 氷や冷却スプレーを直接当てる。血の巡りが落ち、組織の傷みが深くなります
  • 焼く、熱した金属を当てる。やけどが一つ増えるだけです
  • 酒を飲む、飲ませる。判断が鈍り、評価が難しくなります
  • 薬草の貼り薬や、毒を吸うと言われる黒い石。病院に着くのを遅らせる働きしかありません

そのあいだに、すべきこと

動かさないことが手当ての第一歩です。咬まれた手足は、心臓より低くします。添え木や雑誌を巻いて、ゆるく固定します。歩かせない、走らせない。筋肉を動かすほど毒は全身に回ります。

指輪、時計、ブレスレット、きつい靴は先に外してください。腫れてから外すのは難しい。そのまま締めつけが続きます。腫れの先端にペンで線を引き、時刻を書き添える。これを三十分おきに繰り返すと、搬送先の医師が「速さ」を読めます。写真より、この記録のほうが役に立つ。

ヘビを探しに戻らないでください。二人目の患者が出ます。離れた場所から撮れた写真があれば持っていきますが、なくても治療は始められます。

抗毒素は病院にしかない

ヘビ毒に対する血清は、冷蔵が必要で、投与中にアレルギー反応が起きることがあり、その対応ができる環境でしか使えません。薬局にも、往診の鞄の中にもありません。ベトナムでは、種類ごとに在庫のある施設が限られます。どこへ運ぶか。その判断そのものが治療の一部になります。

私どもの体制も隠さずにお伝えいたします。ホイアンやフエ、ニャチャンなど各地域には、その土地に暮らし、医療従事者の資格を持つ医師・看護師がおり、ダナンから人を向かわせることはございません。それでも、毒ヘビの咬傷はこちらの到着を待つべき病気ではございません。往診がお役に立てるのはむしろそのあと、傷の手当てと破傷風の確認、経過の見守りの場面です。

ムカデとサソリ

ベトナムのオオムカデは大きい。刺されると、刺すような痛みが数時間続きます。痛みの強さは、重症度とあまり関係がありません。洗って、我慢できる程度のぬるい湯に浸けると楽になることが多く、冷やすより温めるほうが合う人が多い印象です。腫れと赤みが翌日以降も広がるなら、毒ではありません。感染を疑う段階です。

サソリは、この地域で命に関わる種に当たることはまれです。ただし小さな子どもと高齢者では、痛みに加えて吐き気、汗、脈の乱れが出ることがあります。大人で局所の痛みだけなら様子を見られます。子どもは違います。刺された場合は、受診の判断を早めてください。

ハチ、アリ、毛虫も同じ原則です。分かれ目は、刺された数と場所ではありません。全身の症状が出ているかどうかです。顔やのどを刺された場合は、腫れが気道に近いという理由だけで扱いが変わります。

咬み傷はすべて、感染と破傷風の問題でもある

毒がなかったとしても、動物の歯が開けた穴は深く、洗いにくく、縫うと中で感染しやすい形をしています。流水と石けんで時間をかけて洗うこと。そのあと医療者に見せること。ひとまとめに考えてください。

破傷風は土の中の菌が原因です。日本では一九六八年から定期接種に含まれました。それより前に生まれた人は、基礎免疫がない可能性が高い。追加接種の対象になります。母子手帳が残っていれば持参するか、写真を撮っておくと話が早い。

犬、猫、サルに咬まれた、あるいは引っかかれた場合は、ヘビとは別の時計が動きはじめます。狂犬病はベトナムで現に発生しています。発症後の経過は極めて厳しい。一方で、咬まれた直後の処置と接種で防げます。傷が小さいこと、相手が飼い犬らしく見えたこと。見送る理由にはなりません。

要点だけ

吸わない、縛らない、切らない、冷やさない。動かさず、低くして、腫れの先に時刻を書く。腫れていないコブラ系の咬傷がいちばん油断されます。まぶた、二重に見える、飲み込めない、息が苦しいのどれかが出たら、その時点で待つのをやめて115か救急外来へ。

参考文献

  • WHO — Snakebite envenoming (fact sheet): https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/snakebite-envenoming
  • WHO — Rabies (fact sheet): https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/rabies
  • 厚生労働省検疫所 FORTH: https://www.forth.go.jp/
  • 外務省 世界の医療事情: https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/index.html
呼吸が苦しい、胸が痛む、出血が多い、意識がはっきりしない、脳卒中が疑われるなど緊急の場合は、どうか往診をお待ちにならず、まず115へお電話いただくか、最寄りの病院へ向かってください。

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