約9分 · 2026-10-22 更新

バイクで転んだあと:擦過傷の洗い方、感染の見分け方、破傷風のこと

消毒液より流水、という理由。砂やアスファルトが残ると何が起きるか。感染が始まるときの時間の形、日本の年齢別ワクチン事情、そして保険が使えなくなる運転免許の問題まで。

医療者が旅行者の腕の擦過傷を洗浄し包帯を交換している様子(イメージ)

ベトナムで旅行者が怪我をする原因として、二輪車での転倒は上位に入ります。多くは低速で、骨折もなく、皮膚が擦りむけただけに見えます。問題はそこからです。処置が足りないまま数日が過ぎると、ただの擦り傷が治りにくい傷に変わります。

この記事は、初期にやるべきことと、何日目に何を見るかを整理したものです。診察の代わりにはなりません。

先に読む:待たずに病院へ

次のいずれかがあれば、115へ電話するか救急外来へ直行してください。救急番号は115。日本の119ではありません。

  • 押さえても止まらない出血、または血が勢いよく出ている
  • 指や足首が動かない、感覚がない、色が悪い
  • 脂肪の層や筋肉、骨が見えている深い傷
  • 骨が変な向きになっている、体重をかけられない
  • 頭を打った。特に、嘔吐、強い頭痛、同じことを繰り返し聞く、記憶が飛んでいる
  • 腹部を打って、そのあと腹痛が強くなってきた
  • ヘルメットをかぶっていなかった頭部の打撲

頭を打った場合は、その場の見た目で判断できません。翌日に症状が出ることがあります。ひとりで泊まっているなら、誰かに連絡しておいてください。

洗うことが処置の本体

擦過傷でいちばん効くのは、消毒液を塗ることではありません。流れる水でよく洗うことです。傷の中に残った砂、小石、アスファルトの粒が感染と色素沈着の原因になります。痛いので、誰も十分には洗えません。そこが足りなくなります。

  • 清潔な水で、しっかり時間をかけて流す。ペットボトルの飲料水でもかまいません
  • 目に見える異物は、無理のない範囲で取り除く。埋まっているものを掘り返すのは医療者に任せる
  • 過酸化水素水やアルコールを傷の面に直接繰り返し塗るのは避ける。新しい組織を傷めます
  • 出血は清潔な布で押さえる。押さえたまま十分待つ。覗き込むために何度も外すと止まりません
  • 傷が大きい、口が開いている、関節の上にある場合は、縫合や固定が必要かどうかを見てもらってください

海水やプール、温泉、泥は、傷がふさがるまで避けてください。ベトナムの気候では、傷の表面が乾きにくい。汗もたまります。包帯は濡れたら替える、を基本にしてください。

感染の始まりには時間の形がある

怪我をした直後がいちばん痛いのは当然です。見るべきは一点です。痛みが減っていく流れが、途中で逆転するかどうか。

  • 一日から二日たってから、痛みが増えてきた
  • 赤みが傷の縁を越えて広がってきた。周囲が熱を持っている
  • 黄色や緑色の膿、においが出てきた
  • 傷から線状の赤みが伸びている、近くのリンパ節が腫れて痛い
  • 熱が出た、ふるえが来た
  • 腫れが強くなって、指輪や靴が入らなくなった

このどれかが出たら、同じ日のうちに診てもらってください。抗菌薬が必要かどうか、どれを使うか。傷を見た医療者が決める話です。薬局のカウンターで出てきたものを、自己判断で飲む。効かない場合に気づくのが遅れます。

破傷風は日本人には年齢の問題

土や砂が入った傷では破傷風が問題になります。日本で育った人の場合、定期接種の歴史が年齢で変わるため、自分の状況が人によって違います。おおまかな線はこうです。昭和四十年代以降に定期接種を受けた世代は基礎免疫がある前提で考えられ、それより前に生まれた方は接種を受けていない可能性があります。

基礎免疫がある場合でも、抗体は年単位で下がります。一般に十年ごとの追加接種が目安とされ、汚れた傷ではそれより短い間隔でも追加が検討されます。母子健康手帳が手元にある方は、出発前に写真を撮っておいてください。現地で話が早く済みます。

記録がまったく分からない場合は、その旨を伝えてください。分からないと言うほうが、あいまいに受けたと思うと答えるより安全な判断につながります。

犬や猫に噛まれた、ひっかかれた場合は別の話

転倒とは別の経路です。二輪車の事故で犬を避けようとした場面と混ざることがあるので、触れておきます。動物による傷は、傷の処置とは別に、ただちに相談すべき種類の怪我です。自分で洗って様子を見る対象ではありません。すぐに医療者へ連絡してください。

包帯交換を続けることの価値

擦過傷の結果は、最初の処置では決まりません。その後数日の管理で変わります。一度きれいに洗って包帯を巻いてもらい、そのまま旅程に戻って放置する。これがいちばんよく見る失敗です。

滞在先での包帯交換は、まさにこのための用途に向いています。移動しなくて済みます。傷の経過を、同じ人が見られます。処置の内容は四つです。洗浄、必要なら表面の整理、適切な被覆材への交換、そして次に何を見るかの申し送り。

私どもの体制も書いておきます。ホイアンや近隣の町を含め、各地域には、その土地に暮らし、医療従事者の資格を持つ医師・看護師がおり、ダナンから人を向かわせることはございません。何日目にお伺いするかを先に決めておくと、包帯交換の段取りが組みやすくなります。

保険で見落とされやすい一点

二輪車の事故では、保険金の支払いが運転の資格に左右されることがあります。日本で発行される国際運転免許証は、一九四九年のジュネーブ条約にもとづくものです。ベトナムは締約国ではありません。そのため、この免許証でベトナムの公道を運転することは認められていないという扱いになります。

これは法律の話にとどまりません。適切な資格なしに運転していた場合、保険の免責に当たる可能性があります。自分の契約でどう扱われるか。出発前に保険会社へ確認しておいてください。

事故に遭った場合は、現場の写真、相手の情報、警察に届け出た記録を残してください。治療の書類とあわせて、後の請求で必要になります。

参考文献

  • WHO — Road traffic injuries: https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/road-traffic-injuries
  • WHO — Tetanus: https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/tetanus
  • 外務省 海外安全ホームページ: https://www.anzen.mofa.go.jp/
呼吸が苦しい、胸が痛む、出血が多い、意識がはっきりしない、脳卒中が疑われるなど緊急の場合は、どうか往診をお待ちにならず、まず115へお電話いただくか、最寄りの病院へ向かってください。

医療ガイド

往診をご依頼