約10分 · 2026-10-22 更新
旅行中の尿路感染と腎結石:暑さと水分不足が引き金を引く仕組み
腎結石の痛みと腹膜炎の痛みはじっとしていられるかどうかで分かれます。膀胱炎と腎盂腎炎の境目、結石と感染が重なったときの危険、薬局の抗菌薬が後の診断を壊す理由。

ベトナムの旅程は、尿を濃くする条件がそろっています。汗をかく、ビールとコーヒーで水分を補ったつもりになる、長距離バスとツアーでトイレを我慢する、エアコンの部屋で乾く。濃い尿は結石を育て、動かします。細菌にとって居心地のよい場所をつくります。
だから、日本では一度も腎結石をやったことがない人が、ベトナム滞在中に初めて経験することがあります。真夜中に腰からの激痛で目が覚める。その形で始まるのが典型です。
先に読む:待たずに救急へ
石の痛みは強い。薬で押さえて朝を待つ方向に、気持ちが傾きます。押さえてよい痛みと、押さえているあいだに腎臓を痛めてしまう痛み。見た目でほとんど区別できません。救急番号は115。日本の119ではありません。以下に当てはまるなら、鎮痛薬を足すのをやめて病院へ。
- 震えのくる高熱と、腰か脇腹の痛みが同時にある
- 尿がまったく出ない、出したいのに出せず下腹部が張って苦しい
- 立ち上がると目の前が暗くなる、冷汗が出る、脈が速く弱い
- 意識がもうろうとする、呼びかけへの反応が鈍い
- 痛みで息が浅くなり、吐き気で水分も入らない
- 尿が赤く濁り、同時に熱がある
熱と腰の痛みがそろったとき。ただの膀胱炎として扱える段階を越えています。この組み合わせだけは覚えて帰ってください。
石の痛みは、じっとしていられない
腎臓から膀胱へ向かう管に石が詰まると、管が波のように収縮します。痛みは背中か脇腹から始まり、下腹部、太ももの内側、そして性器のほうへ流れていきます。寄せては引く形です。強い波の最中は、呼吸も浅くなります。
見分けに使える特徴がひとつあります。石の痛みでは、人は体を丸め、寝返りを打ち、立ったり歩いたりします。じっとしていられない。これに対して腹膜炎では、動くと痛みが増します。だから人は動きません。救急でも同じところを見ています。
吐き気と嘔吐はよく伴います。尿に血が混じることもあります。便器の水がうすい赤になる程度のこともあります。熱がないこと。それが感染と区別するうえで大事な点です。
膀胱炎か、腎臓まで上がったか
- 膀胱炎:排尿のときに痛む、何度も行きたくなる、出したあとも残った感じがする、下腹部が重い。熱は出ないか、あっても軽い
- 腎盂腎炎:片側の背中が痛む、震えのくる高熱、吐き気、全身のだるさ。排尿の症状は目立たないこともある
この二つは同じ病気の軽重ではありません。治療の場所が変わる境目です。前者は飲み薬で外来、後者は点滴と入院の検討に入ります。腰を軽くたたいて響くかどうか。診察での手がかりのひとつになります。
いちばん危ないのは、二つが重なったとき
石で尿の流れがふさがれていて、その上流に感染が起きた状態は、急を要します。閉じた袋の中で菌が増えるのと同じです。抗菌薬だけでは追いつきません。詰まりを取る処置が必要になります。
見かけ上は、ただの腎盂腎炎と区別がつきません。だから、結石の既往がある人が熱を出した場合、あるいは石の痛みのあとで熱が出てきた場合は、様子を見る選択を取らないでください。画像で詰まりを確認する必要があります。
糖尿病がある人、片方の腎臓しかない人、妊娠中の人では、同じ状況の余裕がさらに狭くなります。この三つに当てはまるなら、受診の判断を一段早めてください。
薬局で抗菌薬を買ってしまう前に
ベトナムでは、処方なしで抗菌薬が手に入る場面があります。排尿が痛いから、という理由でそれを飲む。三つのことが同時に起きます。症状が中途半端に薄くなる。尿の培養検査が読めなくなる。そして、効かない薬を選んでいた場合、腎臓へ上がるまでの時間を失う。
耐性菌の問題はこの地域で現実のものです。培養の結果に基づいて薬を選べるかどうかが、二日で終わるか二週間かかるかを分けます。症状が出た時点で尿を採ってから、薬を始める。この順番だけは守ってください。
鎮痛薬についても一言。痛みを抑える薬のなかには、腎臓の血流を減らす種類があります。脱水した体で続けて使う。いちばん避けたい組み合わせです。市販薬の成分表示を読み、水分を入れながら使ってください。
予防は、退屈な話に尽きる
- 喉が渇く前に飲む。尿の色が濃い黄色なら、すでに足りていない
- トイレを我慢しない。バスの出発前に済ませ、ツアーの移動時間を先に聞く
- ビール、コーヒー、濃い茶は水分の代わりにならない
- 石の既往がある人は、医師から言われた飲水量を暑い国でも守る。むしろ増やす
- クランベリーは予防として語られるもので、起きている感染の治療ではない
滞在先で診てもらう場合
往診でできることを並べます。痛みの性質の切り分け、尿の簡易検査、脱水の評価、点滴による水分と痛みへの対処、そして画像が必要な場合の病院への紹介。超音波や断層撮影は据え置きの設備です。鞄には入りません。
ホイアンやフエ、ホーチミンなど各地域には、その土地に暮らし、医療従事者の資格を持つ医師・看護師がおり、ダナンから人を向かわせることはございません。それでも石が詰まっている可能性が高い場面では、往診を待つより病院へ向かっていただくほうが結果がよくなります。どちらが早いか、お電話で率直にお伝えいたします。
帰国後のために、石が出たら流さずに取っておいてください。成分が分かると、再発を防ぐ食事と飲水の指示が具体的になります。現地での検査結果と画像の写しも、同じ理由で持ち帰る価値があります。
要点だけ
暑い国では尿が濃くなり、石も感染も増える。じっとしていられない痛みは石、動かないのは別の病気。熱と腰の痛みが同時なら腎臓まで上がっている。石の既往がある人の発熱は様子を見ない。尿を採る前に薬局の抗菌薬を飲まない。出た石は捨てない。
参考文献
- WHO — Drinking-water (fact sheet): https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/drinking-water
- WHO — Antimicrobial resistance (fact sheet): https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/antimicrobial-resistance
- 外務省 世界の医療事情: https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/index.html