約8分 · 2026-10-22 更新

ベトナム沿岸の暑さ:熱疲労と熱中症の違いと、その場でやること

汗が止まったら段階が変わります。二つの状態の見分け方、現場で冷やす順番、やってはいけない水分の取り方、そして薬や年齢がしきい値を下げる理由について。

暑さで体調を崩した旅行者の体温を医療者が測っている様子(イメージ)

ベトナム中部の沿岸は、気温の数字だけ見ると日本の猛暑日と大差ないことがあります。体にこたえるのは湿度との組み合わせと、海風で涼しく感じてしまうことです。風があるから大丈夫だと思って午後のビーチに長くいた人、バイクで走っているあいだは平気だった人。宿に戻って座った瞬間に崩れる。この順番がよく起こります。

暑さによる具合の悪さは、軽いものから重いものへ連続しています。どこで線を引くかが大事です。だからそこから書きます。

先に読む:ただちに救急の状態

次のいずれかがあれば、迷わず115へ電話するか最寄りの救急外来へ向かってください。ベトナムの救急番号は115です。日本の119ではありません。冷やしながら運ぶのが正解です。涼しくなるまで待ってから運ぶのではありません。

  • 呼びかけへの反応がおかしい。受け答えがかみ合わない、言動が妙に攻撃的、ぼんやりしている
  • 意識を失った、またはけいれんした
  • 皮膚が乾いて熱い。暑いのに汗が出ていない
  • 体温が明らかに高く、冷やしても下がる気配がない
  • 吐き続けて水分が入らない
  • 呼吸が速い、脈が速く弱い

この段階は臓器が傷つきうる状態です。時間そのものが治療になります。往診を待つ場面ではありません。

熱疲労と熱中症、どこが違うか

一般に呼び分けられている二つは、重さが違います。やるべきことも違います。

  • 熱疲労。汗をたくさんかいている。だるさ、頭痛、吐き気、めまい、筋肉のけいれん、脈が速い。意識はしっかりしている。涼しい場所で休み、水分と塩分を取れば、たいていは回復します
  • 熱中症。より重い段階です。意識の状態が変わるのが決定的な違いで、体温が高く、汗が止まっていることがある。これは救急です

見分けの軸は、ひとつだけ覚えれば足ります。意識です。本人の受け答えが普段どおりかどうか。ここが崩れていたら、ほかの所見にかかわらず重いほうとして動いてください。

その場でやること、順番に

  • 日陰か空調のある場所へ移す。これが最初で、ほかのどれよりも先
  • 服をゆるめ、ベルトや締めつけるものを外す
  • 首の横、脇の下、足の付け根を冷やす。太い血管が通っていて効率がよい場所です
  • 皮膚に水をかけて、うちわや扇風機で風を当てる。濡らして風、の組み合わせが強い
  • 意識がはっきりしていれば、冷たい水分と塩分を少しずつ。一気飲みは吐き戻します
  • 返事があやしい人に無理に飲ませない。むせて気道に入ります
  • 横にして、足を少し高くする。立たせたままにしない

やってはいけないのは、アルコールとカフェインの多い飲み物で水分を取ろうとすること。それと、気分が戻った直後にまた外へ出ることです。回復したつもりで動き出す。同じ日のうちに二度目が来ます。

この沿岸特有の事情

いちばん厳しいのは三月の終わりから八月にかけてです。昼過ぎから夕方までが山になります。砂浜の照り返しと、海からの風は体感をごまかします。日焼けそのものも体が熱を逃がす力を落とすので、焼けた日の翌日は普段より弱くなっていると考えてください。

バイクでの移動も要注意です。走行中は風で涼しく感じます。水分は普通に失われていて、信号待ちで一気に来ます。ヘルメットの下は熱がこもります。長距離を走る日は、こまめに止まる前提で予定を組んでください。

観光の日程も関係します。遺跡や寺院は日陰が少なく、石畳が熱を返します。午前の早い時間に見て、暑い時間帯は屋内に移す。これだけで変わります。

しきい値が下がる人

  • 高齢の方。暑さを感じにくく、のどの渇きも鈍くなります
  • 小さな子ども。体重に対して表面積が大きく、自分で避難できません
  • 降圧薬や利尿薬を飲んでいる方。水分と塩分の調整が変わります
  • 抗ヒスタミン薬や一部の精神科の薬を飲んでいる方。発汗が抑えられることがあります
  • 心臓や腎臓の持病がある方。水分を多く取ることが逆に負担になる場合があるので、量は主治医の指示を基準に
  • 到着して数日の方。体が暑さに慣れるには日数がかかります

水分と塩分、どのくらい取るか

量の話は難しい。一律の数字を示すのは正直ではありません。目安になるのは尿です。色が薄く、回数が普段どおりに出ていれば足りています。濃い黄色で回数が少なければ足りていません。体重を朝に測れる環境なら、前日より目に見えて減っていることも手がかりになります。

汗を大量にかいた日は、水だけを大量に飲むと塩分が薄まり、かえって頭痛や吐き気が出ることがあります。経口補水液、塩を含んだスープ、果物などを組み合わせてください。ベトナムの食事はもともと塩分と水分を取りやすい構成になっているので、食べられるなら食事から取るのが手堅い方法です。

ただし心臓や腎臓の持病がある方、水分制限を指示されている方は例外です。一般的な助言よりも主治医の指示が優先します。

そのあとの数日

一度やられたあとは、体が弱っています。半日から二日ほどです。立ちくらみ、頭が重い、食欲が戻らない。この間は、暑い時間の外出と運動を外してください。尿の色が濃いままなら、まだ足りていません。

それでも回復が鈍い、あるいは熱が続く場合は、暑さ以外の原因を考える場面です。ベトナムではデング熱や感染症が、暑さの症状と重なって見えることがあります。ここは自分では切り分けられません。

滞在先で診てもらうとき

救急ではないが本人が動けない、という状態は暑さの場合によく起こります。診察で得られるのは四つです。脱水の程度の評価、点滴の判断、ほかの病気との切り分け、そして英文の書類。

場所についても正確にお伝えいたします。各地域には、その土地に暮らし、医療従事者の資格を持つ医師・看護師がおり、ダナンから人を向かわせることはございません。それでも海沿いの離れた宿やリゾートでは、到着までにお時間をいただくことがございます。お待ちいただける状態かどうかの判断も含め、まずはお電話でご相談ください。

参考文献

  • WHO — Heat and health: https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/climate-change-heat-and-health
  • 厚生労働省 熱中症関連情報: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/heatstroke/
  • 厚生労働省検疫所 FORTH: https://www.forth.go.jp/
呼吸が苦しい、胸が痛む、出血が多い、意識がはっきりしない、脳卒中が疑われるなど緊急の場合は、どうか往診をお待ちにならず、まず115へお電話いただくか、最寄りの病院へ向かってください。

医療ガイド

往診をご依頼