約9分 · 2026-10-22 更新
ダイビング後の耳と副鼻腔:気圧の障害と、海水で起きる外耳炎
耳が抜けないまま潜ると何が起きるか。中耳と副鼻腔のスクイーズ、鼓膜の穴、外耳炎と中耳炎の見分け方、そして潜水後の飛行機までの間隔について。

チャム島やニャチャン沖のファンルーム群は水が温かく、体験ダイビングの敷居が低い場所です。そのぶん、耳のトラブルを抱えたまま潜る人が多くなります。二日目、三日目です。帰国前日に耳が詰まったまま飛行機に乗る。よくある終わり方です。
この記事は耳の症状を三つに切り分けます。圧でやられたもの、水と湿気でやられたもの、そして内耳の異常。最初の二つはよくあります。三つめはまれですが、急ぎます。
先に読む:潜水後に急ぐ症状
ベトナムの救急番号は115です。日本の119ではありません。浮上後に次のどれかが出た場合は、ダイビングショップに連絡して記録を残してください。同時に、救急の判断を仰いでください。
- 回りつづけるめまいと吐き気で、立つことも座ることも保てない
- 片方の耳が急に聞こえなくなった、強い耳鳴りが続く
- 手足の力が入らない、感覚が鈍い、言葉が出にくい
- 胸の痛み、息苦しさ、咳に血が混じる
- 皮膚にまだらな模様が出る、強い関節や筋肉の痛み
- 意識がはっきりしない、異常に眠い、尿が出ない
これらは耳の問題ではありません。減圧症や肺の圧外傷として扱われる領域です。再圧治療ができる施設は数が限られ、搬送先はショップと救急が連携して決めます。自力で遠くの街まで移動しようとしないでください。
中耳のスクイーズ:下降中に押し込んだ代償
耳抜きは、鼓膜の内側と外側の圧を合わせる作業です。合わないまま潜り続けると、鼓膜と中耳の粘膜が内側へ引き込まれます。血がにじみます。症状は四つです。耳の詰まり、押されるような痛み、聞こえにくさ、そして浮上後に鼻をかんだときの血の混じった鼻水。
鼓膜に穴が開くと、痛みは逆に軽くなることがあります。楽になったから治った。ここでは危険な読み方です。穴が開いたまま水に入れば、冷たい水が中耳に入って激しいめまいを起こし、水中でのめまいは溺れる原因になります。
やってはいけないのは二つ。抜けないのに力いっぱい鼻をつまんで息むこと、痛みを押して潜り続けることです。抜けない日は潜らない。これは根性の問題ではありません。鼓膜の問題です。
副鼻腔は、上がるときのほうが危ない
鼻風邪や花粉症、乾燥した機内で荒れた粘膜があると、副鼻腔の出入口がふさがります。下降中は額や頬に押される痛みが出て、たいてい潜るのをやめれば収まります。
厄介なのは浮上のほうです。中に閉じ込められた空気が膨張して出口を探し、頬や額の激しい痛み、鼻からの出血、ときに頬の皮膚や歯の痛みとして出ます。上を向いても抜けず、浮上を止めることもできない。選べる手が少ない。だから予防の比重が大きくなります。
点鼻薬で無理に通して潜る方法は、効果が切れる水中で逆戻りする危険があり、勧められません。鼻が詰まっている日は、海を休む日と割り切る。結果としていちばん安く済みます。
外耳炎か中耳炎かは、引っぱれば分かる
温かい海水とプール、湿度、そして綿棒。この三つがそろうと外耳の皮膚が荒れて感染します。ベトナムの海辺ではありふれた症状です。連日潜る人にほぼ必ず出ます。
外耳炎は、耳たぶを引っぱったり耳の前を押したりすると痛みが強くなります。中耳炎では引っぱっても痛みません。この一手で見当がつきます。受診前に試しておくと、説明が速くなります。外耳炎はかゆみから始まり、やがて耳が詰まった感じ、押されるような痛み、においのある耳だれに進みます。
対策は乾かすことに尽きます。上がったあとに頭を傾けて水を出す、タオルの端で入口だけを拭く、綿棒を奥に入れない。耳栓は人によって合いません。合う人には有効です。鼓膜に穴がある可能性があるときは、市販の点耳薬を自己判断で入れないでください。
潜ったあと、飛行機に乗るまで
体に溶け込んだ窒素が抜けきる前に、機内の低い気圧に移る。減圧症の危険が上がります。一般的な指導では、一本だけの日なら半日以上、複数日続けて潜った場合は丸一日を目安に間隔をとります。ダナンやニャチャンから日本への便は朝が多いので、最終日に潜る計画はそもそも組まないほうが無理がありません。
耳が詰まったまま乗る場合も、離陸より着陸がきつい。それを知っておいてください。寝て過ごすと嚥下が減り、いちばん圧が変わる時間に耳抜きをしないことになります。
滞在先で診てもらえる範囲
往診でできるのは五つです。問診、外耳の観察、全身の評価、めまいの性質の切り分け、そして耳鼻科や潜水医学の専門施設への紹介。鼓膜の詳しい評価や聴力検査、再圧治療は設備のある場所の仕事です。鞄に入れて運べません。
ログと症状の時刻をメモしておいてください。何本目の、どの深度で、どのタイミングで何が起きたか。この並びが、耳の問題と内耳の異常を分ける手がかりになります。保険の請求にも同じ記録が要ります。
要点だけ
抜けない日は潜らない。浮上後に楽になった痛みは、治った証拠ではないことがある。耳たぶを引っぱって痛ければ外耳、痛くなければ中耳。回りつづけるめまい、片耳の急な難聴、手足の力が入らないのいずれかなら、耳の話をやめて115と再圧治療の相談へ。
参考文献
- WHO — Deafness and hearing loss (fact sheet): https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/deafness-and-hearing-loss
- WHO — Travel advice: https://www.who.int/travel-advice
- 厚生労働省検疫所 FORTH: https://www.forth.go.jp/