約10分 · 2026-10-22 更新

ベトナムのデング熱:見分け方と、熱が下がってから始まる危険な時期

発症初日から第六日までに何が起きるか。アスピリンとイブプロフェンを避ける理由、解熱後に始まる警戒期間の見張り方、帰国してから発熱した場合の伝え方まで。

医師が滞在先で旅行者の体温と脈を確認している様子(イメージ)

ベトナムで旅行者が熱を出したとき、最初に頭に置くべき病気のひとつがデング熱です。発生は国内の広い範囲におよびます。年間を通して起こり、雨季の後半に数が増えます。特効薬はありません。治療の中心は水分の管理と、悪化の兆候を見逃さないための観察です。つまり結果を左右するのは「何を飲むか」よりも「いつ、誰が見ているか」になります。

この記事は判断を速くするためのものです。診察の代わりにはなりません。市販の解熱鎮痛薬の選び方そのものが危険になりうる病気です。そこだけは先に書きます。

先に読む:待ってはいけない兆候

次のいずれかがあれば、すぐ115へ電話するか最寄りの救急外来へ向かってください。往診を待たないでください。ベトナムの救急番号は115です。日本の119ではありません。ホテルのフロントに頼めば電話をかけてもらえます。

  • 激しい腹痛、または押すと痛みが強くなる腹部
  • 嘔吐が繰り返し、水分がまったく体に入らない
  • 歯ぐきや鼻からの出血、吐血、黒い便、生理以外の不規則な出血
  • 息が速い、浅い、あるいは呼吸そのものが苦しい
  • ぐったりして反応が鈍い、逆に落ち着かず暴れる、意識がはっきりしない
  • 皮膚が冷たく湿っている、手足だけが冷たい
  • 半日以上ほとんど尿が出ていない

重症化は熱が最も高いときに起こるわけではありません。むしろ熱が下がり始めた前後に起こります。直感と逆です。だからこの記事では何度か繰り返します。

どんな熱の出方をするか

典型的には、前触れなく急に高い熱が出ます。風邪とは違います。喉から始まってだんだん上がる、という形ではありません。

  • 突然の高熱。悪寒を伴うことが多い
  • 強い頭痛と、目の奥が押されるような痛み
  • 関節と筋肉の痛み。英語圏で骨が折れる熱と呼ばれるのはこれが理由です
  • 吐き気、食欲がまったくない、口の中が苦い
  • 発症から数日して、胸や手足に赤みや発疹が広がることがある
  • 熱が下がったあとも一週間以上だるさが残ることが珍しくない

食あたりと迷う場面は多い。実際に初日は区別がつかないこともあります。手がかりになるのは一点です。腹痛や下痢が主役か、それとも全身の痛みと頭痛が主役か。後者ならデング熱を一度は疑ってください。ベトナムでは都市部のマラリアはまれですが、チクングニア熱やジカ熱は同じ蚊が運びます。症状だけでは切り分けられません。医師にも難しい領域です。

第四日から第六日が本番

ここがこの病気の肝です。熱が下がると家族も本人も安心しますが、血管から水分が組織へ漏れ出す時期はまさにそのタイミングで始まります。血小板の数が下がります。血液は濃くなる方向へ動きます。顔色がよくなったのに腹痛が出てきた。この組み合わせがいちばん危ない。

この期間は、少なくとも一日二回、できれば朝と夕に確認してください。見るのは三つです。水分が入っているか、尿が出ているか、腹痛が増えていないか。回復したように見えても、見張りは解かないでください。第六日を越えるまでです。

アスピリンとイブプロフェンを避ける理由

デング熱では血小板が減ります。出血しやすい状態になります。アスピリンは血小板の働きそのものを抑え、イブプロフェンやロキソプロフェンといった非ステロイド性抗炎症薬は胃の粘膜を傷めます。どちらも、よりによってこの病気で避けたい方向に体を押します。

使うのはアセトアミノフェンです。ベトナムの薬局ではパラセタモールという成分名で並んでいます。イブプロフェンやアスピリンは、日本から持参した総合感冒薬や生理痛の薬にも入っています。よくあることです。パッケージの成分表示を読んでから飲んでください。読めない場合は、箱の写真を医療者に見せてください。それが確実です。

アセトアミノフェンにも上限があります。肝臓に負担をかけます。アルコールは熱があるあいだ飲まないでください。複数の薬に同じ成分が重複して入っていることも多いので、同時に何種類も足していくやり方は避けてください。

検査で分かること、分からないこと

発症早期にはNS1抗原の検査が役に立ちます。数日経つと抗体の検査が加わります。ただし、本当に大事なのは一回の検査結果ではありません。血小板の数と血液の濃さを、時間をおいて測り直すことです。見るのはその動きです。

一度の採血で問題なしと言われても、それは採血したその時点の話にすぎません。第四日から第六日にかかる時期であれば、翌日もう一度測る前提で考えてください。

蚊は夜ではなく昼に刺す

デング熱を運ぶ蚊は、夜行性ではありません。活発なのは朝のうちと夕方です。室内にも入ってきます。日本の感覚で夜だけ気をつけていると外します。

  • ディートまたはイカリジンを含む虫よけを、露出した肌に塗り直しながら使う
  • ベランダの植木鉢の受け皿、バケツ、エアコンの受け皿にたまった水を捨てる
  • エアコンと網戸のある部屋を選ぶ。窓を開けて寝るなら蚊取りを併用する
  • くるぶしと足の甲は刺されやすく、忘れられやすい

滞在先で診てもらう場合

緊急の兆候がないなら、ホテルやアパートで診察を受けるほうが、つらい体でタクシーに乗って待合室に座るより負担が小さく済みます。診察で得られるものは三つです。脱水の程度の評価、検査、そして第四日から第六日に向けた具体的な見張り方の指示。

私どもの体制についても正直にお伝えいたします。ホイアン、フエ、ニャチャンなど各地域には、その土地に暮らし、医療従事者の資格を持つ医師・看護師がおり、ダナンから人を向かわせることはございません。ダナン、ホイアン、ホーチミン、ハノイ、クアンビン(ドンホイ)には、ご来院いただける診療所もございます。それでも交通や天候で時間は前後いたしますので、いつも現実的な時間の幅をお伝えいたします。

帰国してから熱が出た場合

潜伏期間があります。ベトナムを出てから発症することがあります。帰国後に熱が出たら、受診したときの最初のひと言で渡航歴を伝えてください。どの国に、いつからいつまでいたか。書き忘れられがちな欄です。問診票の渡航歴は、その割に医師の判断をいちばん大きく変える情報です。

空港で元気だったことは何の保証にもなりません。症状が出るまでに日数がかかります。それがこの病気の性質です。

保険請求のために受け取るもの

  • 診断名と実施した処置、処方内容が書かれた英文の診療報告書
  • 項目ごとに分かれた明細付きの領収書。一括表示のものは差し戻されることがあります
  • 検査結果の写し。血小板の推移が記録されていると後の受診でも役に立ちます
  • 薬局で別に買った薬のレシート

要点だけ

急な高熱と全身の痛みならデング熱を疑う。解熱薬はアセトアミノフェンを選ぶ。アスピリンと非ステロイド性抗炎症薬は避ける。熱が下がってからの数日がいちばん危ない。腹痛、止まらない嘔吐、出血、ぐったりのいずれかが出たら、その時点で待つのをやめて115か救急外来へ。これだけ覚えておけば足ります。

参考文献

  • WHO — Dengue and severe dengue (fact sheet): https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/dengue-and-severe-dengue
  • 厚生労働省検疫所 FORTH — デング熱: https://www.forth.go.jp/useful/dengue.html
  • 外務省 海外安全ホームページ: https://www.anzen.mofa.go.jp/
呼吸が苦しい、胸が痛む、出血が多い、意識がはっきりしない、脳卒中が疑われるなど緊急の場合は、どうか往診をお待ちにならず、まず115へお電話いただくか、最寄りの病院へ向かってください。

医療ガイド

往診をご依頼