約10分 · 2026-10-22 更新

ダラットとサパの寒さと湿気:暖房のない国で起きる呼吸器のトラブル

ベトナムは暑い国という前提で荷造りすると外す場所があります。高山病よりも問題になる冷えと湿気、喘息の持ち込み薬の扱い、炭火の暖房で起きる一酸化炭素の話。

肌寒い室内で高齢の旅行者の呼吸を確認している様子(イメージ)

ダラットは標高千五百メートル前後の高原にあります。年間を通して涼しい。朝は十度前後まで下がります。サパは冬に数度まで落ち、まれに雪が舞います。フエと北部の冬は、気温の数字ほど低くないのに体感はずっと寒い。湿気と風がそうさせます。

それでも多くの旅行者が、半袖とサンダルだけで来ます。ベトナムは暑い国だと聞いているからです。この記事は、そこで起きることと、持ってくるべきものの話です。

先に読む:待たずに救急へ

ベトナムの救急番号は115です。日本の119ではありません。次のどれかがあれば、宿で様子を見ないでください。

  • 息苦しくて文章を最後まで言えない、単語で区切って話している
  • 唇や爪が青紫色になっている
  • 発作治療の吸入薬を使っても楽にならない、使う間隔が短くなっている
  • 座っていないと息ができない、前かがみでなければ呼吸が保てない
  • 震えが止まったのに体が冷たく、受け答えがおかしい
  • 同じ部屋にいる複数の人が、同時に頭痛と吐き気と強い眠気を感じている

最後の項目は、部屋の空気そのものが原因になっている可能性を示します。まず窓を開け、全員を外に出してから考えてください。

高山病の話は、ここでは主役ではない

ダラットやサパの標高で、典型的な高山病が出ることはまれです。頭痛や息切れを感じる人はいます。ただし原因は標高よりも、坂の多い街を歩いたこと、寒さ、睡眠不足のほうが大きい。

だから、高山病の薬を探すよりも、羽織るものと乾いた靴下を増やすほうが役に立ちます。身構える方向を間違える。すると備えが空振りします。

暖房のない建物で過ごす

ベトナムの住宅とホテルは、暑さを逃がすために作られています。タイル張りの床、高い天井、よく通る風。涼しい季節になると、この作りがそのまま不利に働きます。室内のほうが外より寒く感じる日があります。

暖房設備は前提にできません。エアコンに暖房機能がついていても、効きが弱いことがあります。ダラットやサパの宿を選ぶときは、暖房器具があるか、湯がちゃんと出るか、乾燥させる手段があるかを事前に聞いてください。写真では分かりません。

湿気も厄介です。布団と枕が湿ったまま、壁にカビが出ている部屋は、喘息やアレルギーを持つ人にとって引き金になります。着いた日に部屋がかび臭いと感じたら、部屋を変えてもらってください。正当な要求です。

喘息と慢性の呼吸器の病気がある人へ

冷たく乾いた空気を一気に吸い込むと、気道が縮みます。朝の冷えと、坂を上る運動が重なる時間帯がいちばんきつい。首元と口元を覆うだけで、吸う空気が温まります。それだけで防げる発作があります。ネックウォーマーを一枚入れてください。

持ち込む薬の扱いには三つの原則があります。発作治療の吸入薬は預け荷物ではなく手荷物に入れる。予防の吸入薬は症状がないあいだも続ける。そして、残量を出発前に確認する。ベトナムの薬局に同じ製品があるとは限りません。あっても名前が違います。成分の一般名を、紙かスマートフォンにメモしておいてください。現地で代わりを探すときに通じます。

スペーサーは、かさばるので置いてこられがちです。発作のときに正しく吸えるかどうかが変わるので、小児と高齢者では持ってくる価値があります。

炭火とガスの暖房:見えないほうの危険

サパや北部の山間部の民家では、炭や練炭で暖をとることがあります。ガスのヒーターや炭火の鍋を、窓を閉めた部屋に持ち込む形も見かけます。燃焼で出る一酸化炭素は、無色で無臭です。気づく手がかりがありません。

最初に出るのは頭痛と吐き気、そしてだるさと眠気です。寒さと疲れとして片づけられやすい。そのまま眠ってしまうのが最悪の流れです。見分けの手がかりはひとつだけあります。同じ部屋にいる人が、同時に同じような症状を訴えるかどうか。体調不良は普通ひとりずつ起きます。

疑ったら議論しないでください。窓を開けて外に出る。それから話す。この順番が命を分けます。

バイクでの冷えと、濡れること

ハイヴァン峠、ダラットへの上り、サパの峠道。走っているあいだは風が当たり続けます。体温を奪うのは気温そのものではありません。風と濡れです。雨具の内側が汗で湿ったまま走り続けるのは、雨に打たれているのとあまり変わりません。

震えは体が熱を作ろうとしている状態です。問題は、その震えが止まったときです。止まったのに体が冷たく、口が回らず、やることの筋道が通らなくなっていたら、悪くなっています。本人は寒さを訴えなくなります。同行者が気づく役を持つしかありません。

対処は乾かすことと包むこと、そして温かい飲み物です。アルコールは体の表面に血を回します。温まった気がして、熱を失います。熱い風呂に急に入れるのも勧められません。

高齢者と小さな子ども

どちらも体温を保つ力が弱く、寒さの訴え方も分かりにくい。高齢の方は、寒いと言わずに元気がなくなるという形で出ます。子どもは手足が冷たいのに本人は遊んでいます。室温を数字で確認できる温度計をひとつ持っていってください。判断が、感覚から事実に変わります。

肺炎は、この季節のこの地域で現に起きます。咳と熱が三日を超えて続く、息が速い、食欲がない。高齢の方の場合、熱が出ないまま進むこともあります。いつもと違うという同行者の感覚。体温計より正確な場面があります。

滞在先で診てもらう場合

往診で引き受けるのはここまでです。呼吸の状態と酸素飽和度の確認、聴診、脱水と体温の評価、吸入や投薬の調整、そして入院が必要な場合の紹介。胸の撮影が必要な判断になれば、設備のある施設へ向かっていただきます。

私どもの体制も隠さずにお伝えいたします。ダラットには、その土地に暮らし、医療従事者の資格を持つ医師・看護師がおり、宿までお伺いいたします。一方、サパは私どもの対応エリアに含まれておりません。そのためこの記事は、現地で呼ぶ話よりも、お持ちいただくものと宿の選び方に行数を割いております。坂や屋外階段の多い宿では時間が前後いたしますので、お尋ねいただければ見込みを率直にお伝えいたします。

要点だけ

高山病より寒さと湿気が問題になる。暖房はない前提で宿を選び、乾かす手段を確認する。喘息の人は吸入薬を手荷物に入れ、一般名をメモする。炭火とガスの暖房を閉め切った部屋で使わない。同室の複数人が同時に頭痛と眠気なら、まず窓を開けて外へ。震えが止まったのに冷たいのは悪化の兆候。

参考文献

  • WHO — Asthma (fact sheet): https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/asthma
  • WHO — Household air pollution and health: https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/household-air-pollution-and-health
  • 外務省 世界の医療事情: https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/index.html
呼吸が苦しい、胸が痛む、出血が多い、意識がはっきりしない、脳卒中が疑われるなど緊急の場合は、どうか往診をお待ちにならず、まず115へお電話いただくか、最寄りの病院へ向かってください。

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