約10分 · 2026-10-22 更新

持病と常用薬を持ってベトナムへ:インスリンの保管から処方の継続まで

日本の処方箋は現地で通りません。インスリンを暑さから守る方法、成分名で薬を伝える書き方、持ち込みで申告が必要になる薬、そして薬を切らしたときに実際にできること。

旅行者が常用薬と英文の薬剤リストを机に並べて確認している様子(イメージ)

持病があっても旅行や駐在はできます。困るのは、たいてい病気そのものではありません。薬の周辺です。暑さで保管が崩れる、処方が続かない、名前が通じない、税関で止まる。どれも出発前の準備で小さくできる種類の問題です。

この記事は準備と現地対応の実務をまとめたものです。治療方針は主治医のものなので、変更は必ず主治医と相談してください。

先に読む:救急にあたる状態

持病がある場合、見張るべき兆候は普通の旅行者より具体的です。次のいずれかがあれば、115へ電話するか最寄りの救急外来へ向かってください。番号は115です。日本の119と混同しないでください。

  • 低血糖の疑い。冷や汗、手の震え、急な強い空腹感、言動の異常、意識がもうろうとする
  • 糖尿病で、吐き気と腹痛に加えて呼吸が深く速い、息が果物のようなにおいがする
  • 胸の痛み、または顎や左腕に広がる痛み
  • 片側の脱力、顔のゆがみ、言葉が出にくい。発症の時刻を必ず記録する
  • 抗凝固薬を飲んでいて、止まらない出血、黒い便、強い頭痛がある
  • ぜんそくで、吸入を使っても息苦しさが戻らない

低血糖には、糖分を取るのが先です。意識がはっきりしていて、飲み込める場合です。ただし、受け答えがおかしい人に無理に飲ませないでください。

インスリンと暑さ

インスリンは熱に弱い。ベトナムの気温は、その限界に近いところにあります。扱いの原則は二つだけです。高温と直射日光を避けること、そして凍らせないこと。

  • 未開封のものは冷蔵庫で保管します。目安は摂氏二度から八度の範囲です
  • 冷凍はさせない。一度凍ったものは、見た目が戻っても使わない
  • 使用中のものは室温で保管できますが、上限があります。暑い部屋や車内、バイクのシート下は上限を超えます
  • 移動中は保冷ポーチを使う。保冷剤に直接触れさせないよう、布などで一枚はさむ
  • ビーチや長距離バスでは、バッグの底ではなく体に近い場所のほうが温度が安定することがあります
  • 停電が起きる地域では、冷蔵庫を開けないことが保冷の最善手です

見た目が濁った、固まりが浮いている、いつもと色が違うインスリンは使わないでください。効き方が変わっているかどうか。見ただけでは判断できません。予備は分けて持ってください。同じ鞄に全量を入れないことも大事です。預け荷物には入れず、機内持ち込みにしてください。

日本の処方箋は現地で使えません

当たり前のようですが、現地で初めて知る人が多い点です。ベトナムで薬を出すには、ベトナムで診察を受けて処方が出る必要があります。日本の処方箋や薬袋は、何を飲んでいるかを伝える資料としては役に立ちます。それで薬が出るわけではありません。

もうひとつの壁が名前です。同じ成分でも商品名は国ごとに違います。日本で使っている商品名を薬局で言っても、通じないことがあります。逆の危険もあります。似た名前の、まったく別の薬が出てくる。

成分名で書いた一枚を英文で持つ

これが準備の中心です。紙一枚と、端末の中の写真。両方あると確実です。

  • 薬の成分名を英文で。商品名はそのあとに括弧で添える
  • 一回量と、一日何回、いつ飲むか
  • いつから飲んでいるか
  • 何の病気のために飲んでいるか。診断名を英文で
  • アレルギーと、過去に合わなかった薬
  • 主治医の医療機関名。連絡が必要になる場面があります
  • 直近の検査値があれば添える。血糖の記録、腎機能、抗凝固薬なら凝固の指標

薬のパッケージと、中身の錠剤そのものを写真に撮っておいてください。言葉で説明できなくても構いません。現物の写真があれば、医療者は多くを読み取れます。お薬手帳の該当ページも撮っておくと役立ちます。

持ち込みで止まる薬がある

量が多い場合や、規制の対象になる成分の場合、持ち込みに手続きが必要になることがあります。睡眠薬の一部、注意欠如多動症の治療薬、強い痛み止め、向精神薬はここに入りやすい。何も知らずに大量に持って入るのは避けてください。

基本の構えはこうです。処方箋の写しと英文の診断書をそろえ、元の容器のまま、ラベルを剥がさずに持つ。小分けのケースに移し替えないでください。何の薬か証明できなくなります。規制の詳しい扱いは渡航先の規定によるので、量が多い場合はベトナムの在外公館や航空会社に事前に確認してください。

現地で処方を続ける方法

滞在が延びた、薬を失くした、思っていたより消費が早かった。いずれの場合も、必要なのは現地での診察です。

診察で行うのは三つです。服用中の薬の内容の確認、同等の成分で入手できるものへの置き換えの検討、そして必要な検査。ここで英文の薬剤リストが効きます。リストがあれば確認の作業で済み、なければ推測から始めることになります。

置き換えになる場合、用量が同じでも剤形や放出の仕組みが違うことがあります。切り替えたあと数日は、体調と測定値を普段より注意して見てください。

持病別に、現地で気をつける点

  • 糖尿病。暑さと歩く量で血糖は普段と違う動きをします。測定の回数を増やし、低血糖に備えて糖分を常に持つ
  • 高血圧。暑さで血圧が下がり、降圧薬との組み合わせで立ちくらみが出ることがあります。量の変更は自己判断せず相談する
  • 抗凝固薬。食事内容と体調で効き方が動きます。出血の兆候と、転倒に注意する
  • ぜんそく。空気の状態と線香や排気の刺激で悪化することがある。吸入薬は常に持ち歩く
  • 腎臓の病気。暑さでの水分の取り方は、一般的な助言と異なる場合があります。主治医の指示を基準に
  • 甲状腺、ステロイドの継続、免疫を抑える治療中。感染症に対するしきい値は下げてください

滞在先での診察について

持病の管理のために毎回病院へ行くのは負担が大きく、特に暑い時間帯の移動は本末転倒になりがちです。滞在先での診察は、服薬の確認、血圧や血糖の測定、創部の管理、採血などに向いています。画像検査や入院が必要と判断されれば、そのように申し上げて紹介状を用意します。

私どもの体制もお伝えいたします。各地域には、その土地に暮らし、医療従事者の資格を持つ医師・看護師がおり、ダナンから人を向かわせることはございません。ダナン、ホイアン、ホーチミン、ハノイ、クアンビン(ドンホイ)には、ご来院いただける診療所もございます。長期滞在の方で定期的な診察をご希望の場合は、ご都合に合わせて日程をご相談させてください。

参考文献

  • WHO — Diabetes (fact sheet): https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/diabetes
  • 厚生労働省 医薬品等の個人輸入について: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/yunyu_kanshi/
  • 厚生労働省検疫所 FORTH: https://www.forth.go.jp/
呼吸が苦しい、胸が痛む、出血が多い、意識がはっきりしない、脳卒中が疑われるなど緊急の場合は、どうか往診をお待ちにならず、まず115へお電話いただくか、最寄りの病院へ向かってください。

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